頭部外傷
頭部外傷の原因は約7割が自動車事故で、その他に自宅での転倒、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故、職場での機械操作中の事故などがあります。
頭部外傷の種類には、頭皮外傷、頭蓋骨骨折、脳しんとう、脳挫傷、脳裂傷、脳の内部や脳と頭蓋の間に血液がたまる頭蓋内血腫などがあります。頭蓋骨が骨折しなくても脳がダメージを受けることもあります。脳の損傷の重症度は、外傷の程度とは必ずしも相関しません。
歩行者の交通事故死亡原因の約7割は頭部外傷です
。また頭部外傷での死亡の7割は交通事故です。頭部外傷を受けた人の4分の1に後遺症が起こるといわれています。
頭蓋骨のなかには脳が入っており、大脳、小脳、脳幹に分かれています。脳幹には呼吸器、心臓など生命維持に必須な中枢があります。この中枢に重大な損傷が起これば即死となり、医療の対象とはなりません。直接、脳幹に損傷がなくてもかたい頭蓋骨で密閉された大脳で急に多量の出血をしたり、はれたりすると、脳内の圧力が上がり大脳からの圧で脳幹を圧迫し意識がなくなり死に至ります。このような場合は、血のかたまりをとる手術や脳のはれをとる点滴をおこないます。
頭部外傷でいちばん大切なことは、意識障害(意識消失、朦朧[もうろう]としているか)です。直後から意識消失が続く場合と、受傷直後に意識消失したあといったんよくなり、その数十分から数時間内にふたたび眠るように意識がなくなる場合があります。意識消失時間が短いとき、本人は覚えていないことが多く、他人が見たほうが正確です。
高齢者の場合、受傷してから徐々に物忘れなどの痴呆症状があらわれ、3週間から3カ月して痴呆がはっきりしてくる場合があります。「慢性硬膜外血腫」といって、徐々に出血していることがあります。この場合は開頭し血腫をとり除くと痴呆がよくなることが多いです。
頭部外傷後、意識障害があれば重症で入院します。意識障害やけががなく、大丈夫と考えてもゆっくりした出血や脳のはれ(脳浮腫)が心配ですので、1日は安静にし、ようすをみることが大切です。その間、激しい頭痛や吐き気・嘔吐が起こったり、手足のしびれが出たり、意識障害が起きたときには一刻も早く脳外科医のいる病院を受診します。
外傷による直接障害のほかにも重要な点は、血管障害を介して起こる障害で、脳や脊髄の出血がその代表的なものです。慢性硬膜下血腫は外傷の強さにはあまり関係なく、すこしずつ脳硬膜の内側へ出血して血腫(血まめ)をつくり、大きくなると脳腫瘍と似たような症状を呈します。脳外科手術の対象となります。
頭皮が切れ外へ出血したり、こぶができていても、頭蓋骨の骨折、頭蓋内出血、脳組織自体の損傷がなければ特に心配はなく、一般的な治療で治ります。
線状骨折(単なるひびが入った状態)、陥没骨折(一部が脳の方向へ落ち込んだ状態)、粉砕骨折(一部がくだけてしまう場合)などがありますが、これらが脳の表面の側(頭皮の下部)であるときには、さほど重症とならない場合もあります。
しかし、頭蓋底骨折(これらの骨折が脳の底面近くに起こった状態)では、鼻や耳から出血したり、髄液が漏れたりします。髄膜炎を起こしやすく、脳組織や脳神経の損傷を伴いやすいので、重症の頭部外傷となります。この場合は入院がぜひ必要です。
脳にある程度以上の外力が加わると、意識障害が起こりますが、一瞬気を失った程度で回復し、脳自体に直接の損傷がないような場合は、単に脳振盪といわれています。これに対し、脳が直接破壊された場合は脳挫傷といわれ、接続する意識障害、けいれん、四肢の運動まひ、感覚の障害、言語障害、排尿障害、精神症状などがあらわれます。
このような場合は脳浮腫を伴い、脳ヘルニア(脳の一部が髄膜をかぶったまま本来の場所より下方へ移動すること)を起こしやすいため、重症で生命の危機もあり、脳外科的な処置が必要です。
脳挫傷の結果または単独に、頭蓋内にいろいろなかたちの出血を起こすことがありますが、これも重大な状態です。脳出血の項で述べたように、脳内出血、脳室出血、くも膜下出血、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫などで、いずれも状況に応じた脳外科的処置を必要とします。外傷を受けた直後は特に症状が出なくても、2週間から3カ月後ぐらいにはっきりあらわれてくる慢性硬膜下血腫も頻度が高い(急性、慢性あわせて頭部外傷の5%程度)ので注意を要します。
外傷を受けたときのくわしい状況・症状・経過(本人の意識障害や記憶喪失のある場合は、目撃者・近親者などの協力が必要)、医師による神経学的な診察がまず重要です。
他の専門的な臨床検査としては、頭蓋骨のX線撮影(特に骨折)、CT(特に脳損傷や頭蓋内血腫)、脳血管撮影、頭部超音波検査、脳波、髄液検査などがありますが、その選択・実施は専門医によっておこなわれます。
意識障害のあるときは、吐物・唾液が気管につまって窒息することのないように頭(できるだけからだも)を横向きにし、嘔吐による誤嚥のおそれのあるときは、顔が斜め下方を向くようにしておきます。
頭皮の出血は強く圧迫すればとまりますが、以後の処置は至急専門医に任せることが第一です。開放性骨折(骨折部が外部と交通している)のときは、感染防止のため抗生物質などを投与、骨折の状況により、頭蓋内出血は原則として緊急に手術をおこないます。術後の早期鍼灸治療がよいです。
頭部外傷のあとに起こってくるさまざまな障害を、ひとまとめにして頭部外傷後遺症といいます。これは便宜上2つの群に分けられます。1つは、脳の損傷によって直接起こった症状で、障害部位により片まひ、言語障害、視力障害、聴力障害、外傷性てんかんなど多彩です。
他の1つは、見かけ上または検査所見上、客観的に一応正常であるのに、頭痛、頭重感、めまい、耳鳴り、手足のしびれ、不眠、精力減退、集中力低下や情緒の不安定など、自律神経失調症ないしは更年期にみられるいわゆる不定愁訴があらわれてくる場合です。
客観的にはっきりした身体症状については鍼灸治療します。
外傷後てんかんは、重度の頭部外傷による脳の損傷後、数カ月から数年で(通常は4年以内)起こります。けいれん発作は、脳まで貫通した重症の頭部外傷では約70%、脳まで達しなかった場合は約5〜30%で起こります。症状は、けいれん発作が脳のどの領域に由来するかによって異なります。前頭葉で発作が起きた場合は、体の反対側の腕や脚の筋肉がけいれんします。
| 小児の頭部外傷 |
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頭部外傷の多くは軽症で、小児の場合はほとんどが完全に回復します。しかし、米国では毎年100万人近い小児が頭部外傷を起こし、約16万5000人もが入院治療を受けています。入院した小児の約20人に1人が死亡し、また約10人に1人の割合で中等度から重度の長期に及ぶ合併症が起こります。 軽い頭部外傷の小児は、ほとんどが帰宅します。両親には、小児の嘔吐が長びいたり、眠気が増したりしないかを観察するように指示がなされます。夜は、小児をずっと起こしている必要はありませんが、医師の指示に従って、たとえば2〜4時間おきに起こして目覚めるかどうかを確かめる必要があります。中には入院して様子をみることが必要な場合もあります。該当するのは、眠気、意識消失(短時間でも)、しびれ、筋力低下、左右の瞳孔の大きさが異なる、けいれん発作、特定のタイプの頭蓋骨骨折(たとえば後頭部の骨折)などです。小児の頭蓋骨骨折の場合、脳の損傷を示す証拠がなければ必ず入院するとは限りません。それとは対照的に、乳児の頭蓋骨骨折で、特に陥没骨折の場合は、ほぼ必ず入院して観察します。また、虐待の疑いがある場合も病院に留めおかれます。 |
頭部外傷鍼灸治療症例:鍼灸治療の対象は、ほとんど頭部外傷後遺症です。したがって、片まひ、言語障害、視力障害、聴力障害、外傷性てんかんや自律神経失調症が対象になります。片まひは「脳梗塞、脳卒中後遺症の鍼灸治療」の章に、言語障害は「発声障害、構音障害(失声症、失語症、嗄声)の鍼灸治療」の章に、聴力障害は「難聴の鍼灸治療」の章に、外傷性てんかんは「癲癇の鍼灸治療」の章に、自律神経失調症は「自律神経失調症の鍼灸治療」の章に、それぞれ記述がありますので、ご参考になってください。
頭部外傷鍼灸臨床経験:頭部外傷後遺症の鍼灸治療は、一般的なリハビリより、 回復の程度がよく、全快した人が多いです。
頭部外傷患者さんの神経、筋肉組織機能の回復を促進すると考えられます。
頭部外傷患者さん98名、全治したのは53名、有効率87%。