糖尿病網膜症
糖尿病網膜症とは、糖尿病が原因で網膜に損傷が生じる病気です。糖尿病の合併症の中で最も深刻なものが、時には失明することもある糖尿病網膜症です。
糖尿病網膜症初期の自覚症状があまりないため、治療の遅れが失明の原因となるケースが多いようです。現在、年間で約3000人もの人が、糖尿病の合併症のために重度の視力障害者となっています。糖尿病網膜症は米国などの先進国で失明原因の上位にある病気です。インスリン治療を受けているかどうかにかかわらず、ほとんどすべての糖尿病患者で網膜に何らかの異常が現れます。糖尿病と高血圧はいずれも網膜に損傷を与える傾向があるため、両方を併発している人では糖尿病網膜症のリスクがさらに高くなります。
血液中のグルコース濃度(血糖値)が高いと、網膜も含めて全身の毛細血管の血管壁がもろくなり、傷つきやすくなります。網膜の血管が傷つくと網膜内に血液と血漿がにじみ出ます。糖尿病網膜症と視力障害の程度は、糖尿病を発症してからの期間や、血糖値のコントロールがどの程度きちんとできているかに左右されます。糖尿病網膜症は、糖尿病になってから、血糖コントロールを十分しないまま放置していると、7、8年から10年がたつうちに、合併症として、じわりじわりと発症することがわかっています。
東京女子医科大学糖尿病センターが行っている調査では、通院加療中の 2,300人(2型糖尿病のみ)のうち、37パーセントに糖尿病網膜症がみられました。そのうちの、約17パーセントは、単純網膜症といって、血糖コントロールをきちんとするだけで食い止められますが、残りの20パーセントは、失明の危険が迫っているといってもおおげさではありません。また、厚生労働省の統計では、糖尿病発病から25年を経過するころには、実に80パーセントを超える人たちが網膜症を合併しています。
網膜症具体的には精密眼底検査が有効です。精密眼底検査とは、目に光をあてて眼球の内側を観察しやすいよう目薬によって瞳の収縮を抑え(専門的には散瞳といいます)、検眼鏡という検査装置や眼底カメラを使って、網膜の毛細血管の出血や破損を調べる検査です。この検査を行うと、ごく初期の小さな出血や破損まで見つけ出すことができます。
網膜症眼底検査は、生活習慣病健診で受けることができますが、一般にいう生活習慣病健診での眼底検査は精密眼底検査のように散瞳を行わず、眼底の中心部のみを対象にした写真撮影で診断する検査が主流です。そのため、眼底の周辺部にある糖尿病網膜症の初期症状を表す出血や破損を必ずしも発見できるとは限りません。
糖尿病網膜症の早期発見には、通常の生活習慣病健診のほかに、眼科医による精密な眼底検査を定期期に行うことが必要です。また、2型糖尿病では、発病がいつからなのか正確にわからないため、糖尿病と診断されたときには、すでに網膜症がかなり進んでいる場合もあります。糖尿病と診断されたと同時に、眼科医の定期的な診断・精密検査をスタートさせ、習慣づけてください。
網膜には、酸素や栄養分を補給するために毛細血管などの細小血管がたくさん集まっています。糖尿病にかかっている期間が長くなり、血糖コントロールがうまくいかない状態が続くと、網膜内にはりめぐらされている血管の壁は常に高血糖の血液にさらされていることになります。そのため、血管壁は次第にもろくなって、血管に小さなコブ(毛細血管瘤)ができて血液の流れが変わったり滞ったりします。また、血管の壁がもろくなると、血液の成分が漏れ出したり、点状やしみ状の小さな出血が起こります。網膜の血管障害がさらに進むと、血管が詰まって血液が流れなくなります。そうすると網膜に酸素不足の状態が起こるため、代わりに新しい血管が伸びてきますが、この新生血管は網膜上だけにおさまらず、硝子体の中にまで立体的に伸びでいきます。ところがこの新生血管は非常にもろく、とても破れやすいのです。硝子体の中で新生血管が破れて出血を起こすと、硝子体が濁り、光の情報は網膜に正確に伝わらず、障害は急激な視力低下となってあらわれるのです。また、網膜上の出血が、黄斑部と呼ばれる視力にとって最も大切な部分をおおったり、増殖した組織のひきつれで網膜剥離が引き起こされる(牽引性網膜剥離)などで失明に至ることもあります。
糖尿病による網膜症は、その進行の段階によって、単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症の3段階に分けられます。
増殖型網膜症では、網膜の損傷が刺激となって新しい血管が形成されます。この新しい血管は異常に成長し、出血を起こしたり、瘢痕を形成します。瘢痕は、大きくなると網膜剥離を引き起こすことがあります。増殖型網膜症は、硝子体(眼球後部のゼリー状の液体で満たされた部位)への大量の出血や網膜剥離を引き起こすため、非増殖型よりも視力に大きな影響を及ぼす傾向があり、完全な失明やそれに近い状態に至ることもあります。
増殖型網膜症では、進行した糖尿病網膜症で重症な段階です。新生血管が網膜や硝子体に向かって伸びてきます。新生血管の壁が破れると、硝子体に出血することがあります。硝子体は眼球の中の大部分を占める透明な組織です。ここに出血が起こると、視野に黒い影やゴミの様なものが見える飛蚊症と呼ばれる症状を自覚したり、出血量が多いと急な視力低下を自覚したりします。また、増殖組織といわれる線維性の膜が出現し、これが網膜を引っ張って網膜剥離(牽引性網膜剥離)を起こすことがあります。この段階の治療には、手術を必要とすることが多くなりますが、手術がうまくいっても日常生活に必要な視力の回復が得られないこともあります。この時期になると血糖の状態にかかわらず、
糖尿病網膜症の予防には、糖尿病をきちんと管理し、血圧を正常範囲に保つことが最も有効です。糖尿病による目の病気、特に糖尿病網膜症の怖さは、目が痛い、かゆい、かすむといった自覚症状がないまま進むことです。糖尿病患者は、網膜症になっても早期に発見して治療を始められるように、毎年眼の検査を受けるべきです。
糖尿病網膜症のために、失明しないまでも、社会生活全体に支障をきたし、視覚障害の認定を受け、社会福祉の対象者になている人は、視覚障害者の約5分の1、年間 3,000人にも及びます。 このような人たちは、青壮年期――いわゆる働き盛りに突然視力を失うことになるため、ハンディキャップを受容することがなかなかできず、社会復帰のためのリハビリテーションが思うように進まないのが現状です。そして、その分、生活を援助する家族への負担も大きくなっているのです。
失明や視力障害にいたる糖尿病の目の病気は、網膜症のほか、白内障、血管新生緑内障などがあります。
糖尿病による白内障は、体内に糖分が増えるため、カメラのレンズにあたる水晶体に糖分が蓄積され、白く濁ってくるものです。一般に、白内障のほとんどが加齢白内障ですが、糖尿病がある場合は早めに白内障がでてきます。多くは水晶体を取り出して、プラスチック製の眼内レンズを入れることでよくなりまずか、重症の場合には、この手術さえできなることもあります。
糖尿病網膜症は、予防と早期発見の徹底で失明はさけられます。血糖コントロールと定期的な精密眼底検査によって、予防、早期発見、治療が可能にもかかわらず、失明原因の第1位という不名誉な結果に終わっています。
東京女子医科大学糖尿病センターで、眼科を初診した人のうち、すでに失明の危険性がある増殖網膜症があった人は10パーセントもいました(1989年1月〜94年12月調査)。そのうち、会社員・公務員は 33.6パーセント、自営業者は 28.1パーセント、主婦を含む無職は 36.8パーセントでした。この調査結果では、なかば強制的に生活習慣病健診を受けている会社員の割合の多さも気になりますが、自営業者や主婦の割合の多さが目立ちます。
視力を人生の途中で失うことは大変つらいことです。糖尿病の方はその危険性を自覚し、積極的に生活習慣病健診を受け、定期的に眼科医を訪ねるように心がけましょう。眼底検査は体の中でも血管の様子を最も鮮明に、直接に見ることができる検査です。そのため、網膜症など目の病気の診断だけでなく、高血圧症や動脈硬化症、脳腫瘍 クモ膜下出血など、さまざまな病気の診断に広く使われています。インスリン依存型糖尿病の患者さんは発病してから5年以上経過したら、またインスリン非依存型の患者さんは病気が発見されたらただちに、眼底検査を受けることが必要です。
糖尿病網膜症鍼灸治療症例 :網膜症患者110名。視力が0.1以下の20名、視力は0.1〜0.5の45名、視力は0.6〜0.9の45名。取穴:眼底穴、球後、足三里、翳風、養老、合穀、百会、風池、光明、三陰交。
糖尿病網膜症鍼灸臨床経験 :網膜症は進行してゆく病気です。特に年齢が若いほど進行は早いです。網膜症の進行具合は人によって違いますが、比較的若い40〜50歳以下の糖尿病の人は進行が早いので、十分に注意を要します。糖尿病網膜症は初期には自覚症状が現れませんが、検査によって異常を発見することが可能です。また、早期発見であればあるほど、治療の成功率も高いものです。
鍼灸治療は主に網膜の酸素不足を解消し、新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管を減らしたりします。
網膜症患者110名、視力増加0.4−1.0人のが40名、視力増加0.2−0.4の人は35名、無効のが35名でした。